遺言執行者の役割と選任方法
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するための手続を遂行する役割を担う人です。
遺言執行者の選任は、一部のケースを除き必須ではないものの、手続をスムーズに進めるうえでメリットが多いといえます。
この記事では、遺言執行者が担う役割と、遺言執行者の選任方法について解説します。
遺言執行者の役割
遺言執行者とは、一言でいうと、故人の代わりに遺言書の内容を実現するために必要となる手続をする人のことをいいます。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理、その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。(民法1012条)。
具体的には、相続財産や相続人を調査し、遺言書に基づく遺産分割の実行を行います。このために、金融機関での預金引出し、法務局での名義変更手続など必要な行為も行います。
また、遺言執行者がいる場合には、相続人による遺言の対象となった相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるような行為は禁止されます(民法1013条)。仮にこれに反した行為をしたとしても、その行為は無効です。
例えば、遺言により第三者に不動産が遺贈されているのにもかかわらず、相続人がその不動産の登記を自分名義に変更してしまうのはこの規定に反し、無効となります。
遺言執行者になれる人
相続開始時点で未成年者や破産者でなければ、誰でも遺言執行者になることができます。
また、個人に限らず法人も、遺言執行者に指定することができます。
しかし、遺言執行手続は専門的な知識を要することも多く、また遺言をすべて実行するためにはかなりの手間もかかりますので、弁護士や信託銀行等専門家に依頼されることが通常です。
遺言執行者の存在がマストの場合、いたほうが良い場合
遺言執行者は全ての相続において必ず必要というわけではなく、法的に必須となるケースとしては、廃除とその取消、子の認知の2つとなります。
いずれも相続人間の利益が対立しうる事象ですので、複雑な法律関係をスムーズに処理するために、遺言執行者が実施したほうがよいからです。
推定相続人の廃除、および廃除の取消しをする場合
推定相続人から生前虐待や重大な侮辱行為を受けた場合、被相続人は、「廃除」といって、その推定相続人の相続権を奪うことができます。
廃除の方法としては、生前に被相続人自ら家庭裁判所に対して申立てする方法と、遺言によって行う方法があります。
後者の場合は、被相続人はもうこの世にいませんので、亡くなった後、遺言執行者が被相続人に代わって、家庭裁判所に対してその相続人の廃除の申立てを行う必要があります。
また、被相続人の存命中に一度廃除されたものの、その後その推定相続人が被相続人に謝罪する等により関係が改善した場合などで、被相続人が遺言によりその廃除を取り消すという場合もあります。
この場合も、遺言執行人が、被相続人に代わり家庭裁判所に申立てをする必要があります。
子の認知
結婚していない男女間に生まれた子である 非嫡出子は、父が認知すると、嫡出子と同様、子としての相続権を得ます。認知は遺言によっても行うことができますが、この場合、遺言執行者が認知届を管轄の役所に提出することによって行う必要があります。
遺言執行者がいたほうがよい場合
法的にマストというわけではありませんが、遺言により第三者に相続不動産を遺贈する場合、遺産執行者がいたほうがスムーズです。
遺言執行者がいない場合、第三者に不動産の名義を変更する遺贈登記をするためには、相続人全員が登記義務者となり名義変更手続をしなければなりませんが、相続人にとってはあまりメリットのある話でもないにもかかわらず、全員の都合をあわせるのは手間がかなりかかります。
この点、遺言執行者が選任されていれば、遺言執行者のみが登記義務者として登記手続をすればよいのでスムーズです。
遺言執行者の選任方法
遺言執行者の選任方法には、遺言による指定、遺言によって指定された第三者による指定、家庭裁判所による指定の3種類があります。
一つ目の方法は、遺言書の中に、遺言執行者となるべき人の指定をいれる方法です。遺言執行者には大きな責任や負担が伴いますので、指定する前に遺言執行者に打診し、遺言内容の詳細についてもすりあわせておくとよいでしょう。遺言執行者の指定は、複数行ったうえで順位を定めることもできます。
二つ目の方法は、相続開始後に遺言執行者を決定する第三者を遺言書で指定しておく方法です。遺言時と相続開始時では状況も異なるでしょうから、信頼できる第三者に依頼しておくことで、相続開始時において最も適切な遺言執行者として相応しい人物を選んでもらうということができます。この場合も、指定する第三者と生前から意向をすりあわせておくとよいでしょう。
三つ目の方法は、家庭裁判所に指定してもらう方法です。遺言で遺言執行者の指定がない場合や、指定された人が就任を辞退したり相続時に亡くなっていたりしたりした場合には、相続人等の利害関係人は、遺言者の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、遺言執行者の選任を申し立てることができます。
申立人はこの際、遺言執行者の希望候補者を述べることができ、家庭裁判所は候補者の意向を聞きつつ、その候補者が適任であるかを判断します。
最後に
遺言執行者という制度の概要は以上のとおりです。遺言執行者の役割と選任方法についてご参考になれば幸いです。