相続で無視されたら相続回復請求を

ご自身が法定相続人であるのにもかかわらず、無視されて他の相続人のみが勝手に遺産分割をしてしまっていたり、法定相続権を持たない人が、相続資格を主張し遺産を占有していたりするような場合、ご自身の相続を回復し、相続財産を取り戻すためにはどのようにすればよいのでしょうか?

相続財産を一括して取り戻すための請求を、法的には相続回復請求といいます。

この記事では、相続回復請求の詳細についてご説明します。

相続回復請求権とは

相続回復請求権とは、相続人でない者が相続人としてふるまい、あるいは自らの相続分を超えて本当の相続人の相続権を侵害している場合に、真正相続人から侵害の排除請求を認め、その相続権を回復させるための制度です。

相続回復請求権を行使できる真の相続人のことを真正相続人といいます。真正相続人から相続分を受け継いだ人も真性相続人となります。

一方、真正相続人から売買、 贈与などによって個々の相続財産を譲り受けた人(例えば、相続財産のうち不動産を譲り受けた人)は、相続回復請求権を行使することはできません。相続回復請求権の根拠は、相続人である身分関係に由来するものであるからです。

このような場合は、相続財産を譲り受けた人は、財産についての自身の所有権に基づいて、侵害者に対して、財産の返還請求や妨害排除を求めることができます。

相続回復請求権が行使される場面

真正相続人が相続回復請求権を行使する相手方としては「表見相続人」と「共同相続人」の2パターンがあります。

表見相続人に行使する場面

表見相続人とは、法律上は相続権がないのにもかかわらず、まるで相続人のようにふるまい相続財産を処分したり占有したりしている人をいいます。

例えば、実際は被相続人と親子関係がないのにもかかわらず虚偽または誤った出生届や認知届が出されたために戸籍上は子として相続をした人、配偶者として婚姻関係を結び、または養子縁組をして相続人になったものの、実際は何らかの理由により婚姻や養子縁組が法的に無効であった人などがこれらにあたります。

また、もともとは相続人であったけれど、相続欠格や相続廃除となった人も表見相続人になりえます。表見相続人が相続財産を占有しているような場合は、真正相続人は自分の相続権を侵害されているといえるので、相続回復請求権を行使することができます。

共同相続人に行使する場合

複数相続人で共同相続をしている場合であって、他の相続人が遺言の定めや法定相続分を超えて遺産を利用しているような場合にも、相続回復請求権を行使できます。相続人ではあっても、相続分を超えて遺産を利用している部分については、表見相続人と同様であると考えられるからです

そこで、このような場合でも、真正相続人は相続回復請求権を行使することができます。

相続回復請求権の具体的な行使の仕方

それでは、表見相続人や共同相続人に対して、具体的にどのように相続回復請求権を行使し、侵害された遺産を取り戻せばよいのでしょうか。

相続回復請求権は、これを根拠に個々の財産について取り戻し請求をすることもできますし、対象財産を列挙せずに包括的に請求することも可能です。

具体的に請求していく方法としては、以下のような方法があります。

相手方との直接交渉

まずは、表見相続人や共同相続人との話し合いをしてみましょう。裁判外での和解交渉で解決できれば、費用や時間も短くできる可能性もあります。相続回復請求権の行使方法は特段法律で定められていないので、裁判外での当事者間の交渉も可能です。

なお、後述する時効との関係もあるため、内容証明郵便を利用して、主張内容や日付を残しておきましょう。直接交渉により遺産の返還について合意した場合は、合意書として書面を取り交わしたうえで、返還を実施してもらいましょう。

また、契約書は公正証書にしておくことも考えられます。相手方が返還を約束したにもかかわらず実施してくれない場合、公正証書があれば相手方の財産に強制執行をかけることにより遺産を取り戻すことができます。

訴訟による解決

当事者間の交渉で、相手と合意できない場合は、民事訴訟を提起し裁判所での解決をはかることとなります。相手方の住所地の地方裁判所に対して相続回復請求訴訟を提起しましょう。

遺産分割が訴訟ではなく遺産分割調停や審判での解決となることと対照的に、相続回復請求は調停や審判では行うことができず、民事訴訟での解決となります。

相続回復請求を認める確定判決がでれば、それをもとに遺産を返してもらうことができます。

相続回復請求権の時効

相続回復請求権は、相続権の侵害を知ったときから5年または相続開始から20年経過すると、時効消滅してしまいます(民法884条)。相続権が侵害されていることを知った場合、訴訟を起こすなど時効を止めるためになるべく早く行動に移しましょう。

なお、相続回復請求権の時効には例外があり、共同相続人が自身の持ち分を超えて相続権を侵害した場合、判例により「侵害者が善意で合理的な理由がある場合」でない場合は5年の時効が適用されないとされています。他に正当な相続人がいることを知りながら、あえてその相続権を侵害している場合に、時効消滅を認めるのは不合理であるためです。

最後に

以上で説明した相続回復請求権が実務上問題となる場面は多くありません。大多数の事例では遺産分割調停・審判、共有物分割訴訟などで紛争が解決されることが多いからです。

相続で無視されたり、相続人ではない人が相続財産を占有・利用していたりした場合、相続回復請求権を行使し、正当な相続分を取り戻すことができます。

相続回復請求権の行使を活用するのは特殊な事例であると考えられるので、一度相続に詳しい弁護士に相談してみることをおすすめします。

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