「遺言信託」はどれだけメリットがあるのか?

「遺言信託」という用語は、法律上の民事信託の一つである「遺言信託」と、信託銀行のサービス名である「遺言信託」とどちらの意味にも使われます。

この記事では、二つの「遺言信託」について、そのメリットをご説明します。後に詳しく述べますが、「遺言信託」は、狭い意味では「遺言による信託」をいいます。

そこで、これを正しく理解していただくためには、まず「信託」について説明する必要があります。

遺言信託とは

信託制度とは

遺言信託が採用する仕組みは法律上の信託という制度です。信託とは、信託法2条1項に、「特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすること」と定義されています。

わかりやすくいうと、財産を持つ人が委託者となり、信頼できる他人を受託者として、信託財産の運用管理を委託します。信託の制度では、名義上、信託された財産(以下「信託財産」といいます。)の所有権は受託者に移転されることとなります。

ただし、受託者が自由に信託財産を処分できるわけではなく、委託者から指定された受益者(信託財産から利益を受ける人)のために、信託財産を運用することとなります。受託者は受益者のために信託財産を適正に運用する忠実義務を負います。

遺言信託とは

信託は委託者が存命中に、委託者と受託者の信託契約の締結により開始することもありますが、遺言信託の場合は、委託者が遺言書をしたため、自らの死亡後に信託を開始することを指定しておく方法をとります。

なお、別段の定めがなければ、相続人は委託者の地位を相続しません。より短い言葉で表現するならば、「遺言による信託」とか「遺言を活用した信託」というのがふさわしいでしょう。遺言書には、最低限、信託の目的、信託財産と信託内容、受託者・受益者を定めておく必要があります。

なお、受託者として指定する方には、あらかじめ遺言で受託者に指定しておくので引き受けてくれるように同意をとっておきましょう。

遺言の方式は、通常の遺言の方法と同様、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類の方法があります。信託は長期にわたるスキームとなりますので、法律のプロである公証人に作成してもらえる公正証書遺言として残しておくほうが無難でしょう。

自筆証書遺言は、費用をかけず任意のタイミングで作成できるメリットはあるものの、形式不備による無効のおそれや、専門家の力を借りずに作成するため、不明確な記載内容によりトラブルが発生してしまう可能性があります。

遺言信託のメリット

長期にわたって、相続財産の管理・運用・処分を定めておくことが可能となります。

例えば、高齢の配偶者や障害等がある子供が相続人となる場合、相続人に単に遺産を渡してあげたとしても、判断能力に欠けて自ら財産管理ができない可能性があります。

その点、遺言信託であれば、信頼できる家族や他人のだれかを受託者としておき、高齢の配偶者や障害のある子供を受益者とすることで、長期的に生活資金の管理等をしてもらうことができ、安心です。

また、2次相続以降の財産の管理も指定できることもメリットです。通常、財産が一旦相続されれば、そのあとは相続した人が自由にその財産を使用、収益、処分することができます。

一方、相続人の方に、例えば子供に相続させた不動産等思い入れのある特定の財産を、さらに次の世代まで継承したいというような希望がある場合は、遺言信託を利用することもおすすめです。対象の財産を信託財産としておき、受託者に運用を任せつつ、その次の相続先も委託者が指定することができるからです。

信託銀行の遺言信託サービス

これまでご説明してきた民事信託の一つとしての、遺言信託とは別に、信託銀行が提供する遺言信託というサービスがあります。

このサービスでは、信託銀行が、遺言書作成、遺言書の保管、遺言書の執行まで一貫してサポートをしてくれます。こちらをいい換えるとすれば、「遺言の信託」とか、「遺言執行の委託」というとイメージしやすいと思います。

流れとしては、まず遺言書として残したい内容について信託銀行と契約している弁護士等の専門家に事前相談をします。その後、公証役場へ赴き、公正証書遺言として作成します。遺言書の中で、遺言執行者を信託銀行等に指定しておきます。公正証書遺言の作成には、2人の証人の立会が必要になりますが、信託銀行等の職員に依頼することも可能です。遺言書作成後は、遺言者と信託銀行等との間で遺言信託契約を締結します。

また、遺言者が死亡した際に、信託銀行等への連絡を行う死亡通知人を取り決めておきます。遺言者が死亡した場合、指定された死亡通知人は、信託銀行等へその旨を連絡します。連絡を受けた信託銀行等は遺言執行者として、遺言執行業務を行います。

遺言信託サービスは比較的高額な費用がかかりますが、年々利用者数はのびています。遺言信託サービスのメリットとしては、なんといっても安心感があるという点です。遺言者の死後、遺言者に代わって遺言の内容を実現してくれる遺言執行者は、未成年者や破産者以外であれば、誰でもなることができます。

しかし、個人に依頼した場合、遺言者より先に死亡してしまったり、人間関係が後々変化してしまったりというリスクがあります。その点、信託銀行という永続性のある組織に遺言執行者となってもらえれば安心といえるでしょう。

もう一つのメリットとして、信託銀行と契約している様々な専門家の知恵を借りることができる点があります。遺言書は法律文書ですので、いざ作成しようと思っても、一般の人にはなかなか難しいところもあります。

また、様式に沿った書き方でないと後日無効となってしまうリスクもあります。この点、信託銀行と契約している弁護士のアドバイスを受けつつ遺言内容を決めることができれば、遺言者の希望に最もそった有効な遺言書を作成することができます。

また、税理士など税務や財務の専門家もいますので、相続税等についての検討も相談することができます。

最後に

以上で説明したものが遺言信託の概要です。

「遺言信託」は大きく二つの意味で用いられておりますので、どちらの意味の「遺言信託」なのかをわかっておけば、巷に流れている各種の情報をより深く理解することができるでしょう。遺言信託のメリットについてご参考になれば幸いです。

初回相談120分無料/土曜相談対応可/法律相談実績5,000件の弁護士が対応

相続トラブル・生前対策のお悩みはお任せください。
通話料無料
0120-792-551
【受付時間】平日9:30〜18:00 / 土曜日10:00〜17:00
24時間受付/メールでの相談予約はこちら