遺産が使い込まれていた場合に取るべき方法

遺産の使い込みとは、被相続人と同居しているとか、財産管理を任されていた一部の相続人が、被相続人の財産を、勝手に使い込んでしまったり自分のものにしてしまったりしてしまうことをいいます。

被相続人と離れて暮らしている相続人は、相続開始後にはじめて遺産の使い込みがされていたことに気づくケースもよくあります。

それでは、もしご自身が相続すべき遺産が使い込まれてしまっていた場合に、遺産を取り戻すために取るべき方法はどのようなものがあるでしょうか。

遺産の使い込みでよくある事例とは?

被相続人と同居や介護をしている相続人がいる場合(例えば、老齢の父を子が同居して介護している場合など)、相続人は被相続人から信用を得ていることが多いですし、物理的にも財産にアクセスしやすい状態にあるといえます。

そのため、勝手に、被相続人名義の預貯金口座から現金を引き出して、自分のために使ってしまっているケースがあります。

また、被相続人が投資用不動産等を所有している場合に、無断で実印等を持ち出して売却をして売却益を着服したり、賃料を管理するという名目で入金された賃料を自分のために使ってしまったりするケースもあります。

遺産の使い込みの証拠を確認しよう

遺産が使い込まれている可能性がある場合、まずは使い込みの証拠を探しましょう。相手が任意で認める場合を除き、交渉をするにしても法的措置をとるにしても、客観的な使い込みの証拠が必要となります。

使い込みの証拠の一例として確認すべき項目として、被相続人の預金口座や株式口座の取引明細書、不動産の売買契約書等に不審な履歴がないか、使い込まれていた時期の被相続人の介護記録や認知症の診断書などで、被相続人が判断能力を有していたかどうかなどがあります。

例えば、被相続人の預貯金については、相続人であれば、金融機関に過去数年分の取引明細書を発行してもらうことができます。

対象財産が多かったり、相続人自らが調査することが困難だったりした場合、弁護士に調査を依頼することもできます。

弁護士法23条に定められた弁護士照会という制度により、弁護士が担当する案件について関連する証拠や情報について、弁護士会から照会をすることができるので、上述の金融機関の取引明細書をはじめ、よりスムーズに使い込みの有無の調査をすることもできます。

遺産の使い込みの解決方法

調査の結果、遺産の使い込みがわかった場合や疑義が強い場合は、①当事者間の交渉で解決する、②民事訴訟で解決するという解決方法があります。

当事者間の交渉で解決する

まずは遺産の使い込みをした相続人と直接交渉をして、使い込みをした遺産分の清算を求めましょう。上述の調査の結果の客観的な証拠を示すと説得力が増します。

当事者間で直接話し合うと感情的になってしまいそうな場合や、話し合いが進まない場合は、相続に詳しい弁護士に依頼して代理で交渉してもらうこともひとつです。

民事訴訟で解決する

当事者間の交渉でも、相手方から使い込んだ遺産の返還に応じてもらえない場合、終局的な解決をはかるためには民事訴訟を起こすことになります。起こす訴訟の種類としては、不当利得返還請求訴訟または不法行為に基づく損害賠償請求訴訟になります。

不当利得返還請求とは民法703条以下に定められた請求権で、法律上の原因なく利益を得た人に対して、損失を被った人は返還を請求することができるというものです。使い込まれた遺産は、本来は相続人全員による遺産分割で分けられるものであるため、被害にあった相続人の方は自らの法定相続分について不当利得の返還を求めることができます。

もう一つの不法行為による損害賠償請求は、民法709条により認められています。故意または過失により他人の生命・身体・財産に損害を与えた者は、その損害を賠償する責任を負います。遺産の使い込みは、故意(わざと)に、その権限もないのに相続財産を使ってしまうということですので、不法行為にも該当します。

原告となる被害にあわれた相続人の方は、不当利得返還請求と不法行為に基づく損害賠償請求のどちらでも請求することができます。

訴訟のメリットのひとつとして、自らまたは弁護士によっても使い込みの確たる証拠はつかめなかったものの非常にあやしいという状況証拠があるような場合に、訴訟継続中に、裁判所に対して調査嘱託の申立てができるということもあります。

消滅時効に注意しよう

裁判で争って遺産の使い込み分を返してもらうためには、時効があることには注意しましょう。

まず、不当利得返還請求権は、相続人が使い込みがあると知ってから5年以内に行使しなければ、時効によってその後はもはや請求できなくなってしまう可能性があります(平成29年改正後民法による場合)。

次に、不法行為に基づく損害賠償請求権の時効は、損害及び加害者を知ってから3年間となりますので、使い込みの場合は使い込みが発覚した時から3年となることが多いでしょう。

時効を完成させないためには時効を中断する必要がありますので、使い込みに気が付いたらなるべく早めに弁護士に相談しましょう。

遺産の使い込み問題は弁護士に相談することがおすすめ

遺産の使い込み問題は、相続に詳しい弁護士に相談することがおすすめです。

上述のように、弁護士照会などを利用して効率的に証拠を集められますし、同様の問題に慣れている弁護士であればどういったものが証拠になるのか、どのような対象を調査すれば証拠が集まりやすいのか等を熟知しているからです。

また、当事者間で話すと感情的になりがちなテーマである使い込み問題も、第三者である弁護士が冷静かつ法的な根拠を添えて返還をするように説得することで、使い込みをした相手方も応じてくれる確率もあがります。

また、話し合いで解決がつかなかった場合でも、その後の民事訴訟の対応も任せることができます。

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