【特別代理人】未成年や胎児がいる場合の相続の進め方について
相続が発生した場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産を誰がどのように相続するか決める必要があります。
ところが、相続人の中に未成年者や胎児がいる場合には、自分の法的権利や義務を十分に理解することができないため、本人に代わって各種の手続を代行する人が必要となります。
この記事では、相続人の中に未成年や胎児がいる場合の相続の進め方についてご説明します。
未成年者や胎児にも相続権が生じます
民法は法定相続人の範囲を定めており、この範囲に入る場合、未成年者や胎児にも相続権が発生します。
しかし、遺産分割協議は法的な権利義務を定める法律行為であるため、未成年がこれを行うにはその法定代理人の同意が必要です。
また、まだ産まれていない胎児はそもそも遺産分割協議に参加することができません。遺産分割協議には法定相続人全員の参加が必須条件となるため、未成年や胎児を代理するための特別な手続が必要となります。
特別代理人の選定が必要な場合
親と子の利益と相反するような場合や、成年後見人と成年被後見人の利益と相反するような場合には、子や成年被後見人の利益を守るために、特別代理人の選任が必要となります。
具体的には、以下のように、未成年の子とその親がどちらも相続人になったり、胎児とその親がともに相続人になったりするようなケースがあげられます。
例外的に、親が相続についてのその子の代理人となれるのは、親が相続放棄をし、未成年の子のみが相続人となった場合に限られます。この場合には、利益相反の懸念がないためです。
ただし、このケースであっても、親が子の代理人となれるのは、未成年の子供1人に対してのみとなります。相続人となる未成年の子供が複数いるときは、兄弟姉妹の誰かについて有利となってしまわないよう、親が代理を務める1人以外の子については別途特別代理人をつける必要があります。
未成年が法定相続人となる場合
通常、未成年者の法定代理人は両親となり、相続のような法律行為をする場合、親権者である法定代理人の同意が必要になります。
しかし、相続の場合は特殊で、法定代理人自身も相続人となっているケースが多くあります。たとえば、未成年者の父が被相続人である場合、相続人は母と未成年者となります。母は未成年者の法定相続人ではありますが、一方の相続分が増えると他方の相続分が少なくなるという意味において、母と未成年者は利益が相反することとなります。
こうした場合に、未成年の利益を守るため、第三者である特別代理人を選任する必要があります(民法826条)。特別代理人とは、本来代理人となるべきものが権限を行使することができない場合において、特定の手続についてのみ代理人となる者をいいます。
母が未成年の法定代理人として遺産分割協議に参加してしまうと、実際にするかどうかはともかく、自らの相続分を多くしたまま協議を成立させることも理屈上は可能であるため、そのような事態を避けるために特別代理人が選任されます。
胎児の相続について
民法上、人というのは、出生した瞬間から権利能力を得ます。
ただし、相続においては、例外として、出生を条件に胎児に相続をする権利能力が認められています。
たとえば、父が亡くなった際、母が懐胎中であった場合は、出生を条件として、その胎児も相続人になることが認められています。胎児が生まれるまでに遺産分割協議が進む場合、未成年者の場合と同様、胎児のための特別代理人を選任させることで遺産分割協議を進めることは可能です。
ただし、万一死産となった場合、遺産分割協議自体が無効になり、新たに協議し直す必要が出てきてしまうので、出生を待ってから特別代理人の選任・遺産分割協議を行うほうが合理的であるともいえるでしょう。
特別代理人を選任するための手続
特別代理人の選任に際しては、家庭裁判所での手続が必要になります。公平を期すために、裁判所を介さず相続人同士で決めても有効とはなりません。特別代理人の資格は特になく、その相続において相続人でなければ、誰でもなることができます。親族の誰かを指名するという方法もありますが、経験値や公平性の観点から、家庭裁判所が弁護士を特別代理人として選任するケースも多くあります。
特別代理人を選任するためには、まず特別代理人をつける必要がある人(相続人となる未成年者等)の現住所を管轄する家庭裁判所に対して、特別代理人を選任してほしい旨の申立てを行います。特別代理人選任の申立てをすることができる人は、未成年の親権者または「利害関係人(法律上の利害関係を有する人のこと)」である必要があります。
申立てにあたっては、申立書、申立人と未成年者の戸籍謄本、特別代理人候補者の住民票および戸籍謄本や、被相続人の遺産を示した資料、遺産分割協議書案、特別代理人候補者の承諾書などの書類と、申立費用として収入印紙800円と所定の切手を提出する必要があります。
申立てを受理した裁判官は、審理を行い、提出された書面審査、審問、審判を行い、その特別代理人を選任するかどうか申立人に審判結果を通知します。申立てから通知までの時間的目安としては、およそ1~3か月程度かかります。
特別代理人ができること
遺産分割協議に、未成年や胎児等に代わって参加し、遺産分割協議書への署名・押印を行います。
また、決定された遺産分割協議の内容にしたがって、不動産の相続登記や預金払戻しなどの相続手続も行います。その他、家庭裁判所の審判によって定められた行為について、代理権等を行使することになります。
また、定められた行為についての代行業務が終わると特別代理人としての任務も終了します。
最後に
以上のように相続で特別代理人が必要となるケースに注意しましょう。
相続人に未成年や胎児がいる場合の相続の進め方についてご参考になれば幸いです。